前回カミーノで知り合った旅人の話〜ドイツ人のコリアくんに、「日本はNo future...」と言われた話【前編】の続きです。
「日本はフクシマのことがあったから、No futureだ」と言って議論をふっかけてきたドイツ人青年コリア。1対1の討論が、メラニーの登場でいったん中断となり、私は無事にスパゲティーとウィンナーに手をつけれることになりました。そうそう、これはディナーでした。腹が減っては戦はできぬです。
メラニー参戦。が、しかし…
オーストラリア人のメラニーは、カミーノで知り合ったドイツ人と付き合い始めていたのですが、彼氏はちょっとチャラチャラしていたので、今夜は行方不明の様子。それでも別に気にせず1人の時間を楽しむメラニーが、カミーノを歩き始めた理由を語り始めました。
母親が亡くなったことがきっかけだという話で、メラニーが話し終わったあとに、コリアも、
「僕の父親も昨年死んだ。歩きながら父のことを毎日考えている。」
と切り出しました。
今夜は、なかなか重い話が続くな。明日の歩きはしんどいから早く寝たかったのにな…なんて思いつつ(冷酷)、私もウィンナーをかじりながら聞いていました。
すると、メラニーの彼氏がどこからか戻ってきたため、メラニーが退席。
おいおい、メラニー、こんな話の途中で席を立つか?普通?
と呆れましたが、また私たちは2人きりになり、できるだけエキサイトしない、させない話し方で、お父さんのことを尋ねました。
コリアのお父さんの話
コリアのお父さんは、とても強くて、アウトドアが好きで、色んな場所に連れて行ってくれる人だったけど、ALSの病気になってしまい、どんどん色んなことができなくなって、闘病の末、昨年死んでしまったとのこと。
コリアは、お父さんのことを、
「とても強い父親で尊敬していたけど、ALSになって、何もかもができなくなっていく父を見て悲しかった。
強いと思っていた父が最後の方は父親が泣くこともあった。
性格も変わった。
とても弱くなっていた。
父は変わってしまった。
自分は、そうなりたくないから、強くなりたい。弱い人間ではいけない。
だから、カミーノを歩いている。」
と私に分かりやすいようにゆっくりと話してくれました。
私は、フクシマの話題よりも、このテーマの方が、自信を持って伝えられると思って、コリアに言いました。
「Nobody stay strong all time.
ずっと強い人なんていない。
お父さんが変わったのではなく、病がそうさせた部分もある。病気になる前の、コリアがよく知るお父さんこそがお父さんの姿。そして、病気と戦ったのも、強かったお父さんの姿。
Your father was fighter.
弱さを表現できるのは、強い人なんだと思うよ。」
文法は無茶苦茶ながら、単語を並べて伝えると、なんとコリアの目から涙がこぼれました。
「そっか、そっか。よしよし。」
つい、日本語で言ってしまいました。
ドイツ代表と日本代表の首脳会談は、いつのまにか、悲しい気持ちを虚勢を張って隠していた20代の青年と、ちょっとばかし青年よりも人生経験のある姉さん(アラフォー)との飲み会になっていました。
「死後の世界ってあるかな?」とか、「カミーノを歩いてて、死んだ人がそばにいると感じたことがある?」とかそういう話題にシフトしていきました。
議論するならこういう話題の方が好きだな、なんて思いつつ。
サンティアゴのミサにて
コリアからの最後の挑戦状
「No future」と言われてから3時間は経過していました。穏やかに家族の話などをしている中で、そろそろ切り上げて寝ようかなと思ってた頃。コリアから最後の質問が投げかけられました。
「あなたにとって、人生で一番大切なものって何?」
うーん。
「Enjoy!(楽しむことかな)」
とシンプルに答えました。
するとコリアの顔つきが変わりました。
あちゃー、またスイッチ押したみたい…。
「Enjoyは違う!ダメだ!
楽しむなんて子供がすることで、誰でもできる簡単なこと。
大人には責任がある、patient!耐えることが必要。」
そんな否定せんでもええやんか。やっぱりコイツはムカつくなー。
「楽しむことは簡単なことじゃないよ。誰でもできることじゃない、少なくとも日本人にとっては。日本人は楽しむことが苦手かも知れない。だから、大切だと思う。」
「楽しむのは子供でもできるだろ?」
「子供だからこそできる。
ドイツ人も日本人もワーカホリック。
だけどドイツ人は日本人より休暇を楽しめている。
日本は休暇もろくに取れない国。
楽しむことが苦手だから、楽しむのは日本人にとって誰でもできることじゃない。
だから、あえてそれを大切にしたい。」
「日本人は自殺者が多いと聞く。そんな社会はcrazyだ。」
「そう。だから、楽しめる力って必要やねん!」
「英語と一緒だ。英語で話すのが難しくても苦しくても話すことが大事。練習。練習。それが成長につながる。
日本人はもっと英語で話そうとしないとダメだ。下手でもいい。学ぶことは苦しいこと。
生きるためには苦しみ、耐えることが必要。
楽しむだけじゃ成長しない!」
「耐えることが要らないとは言ってない。」
またしてもエキサイト。フクシマ問題よりは対等に言い合いになったものの、これはなかなかの平行線。
困った時の私の必殺技、質問返し。
「コリアは?
What do think?
What is the most important thing for you in your life?」
コリアは、また自信満々に答えます。
「Love(愛だよそんなもん。)」
…。
出たー!「祈り」に続くシンプルなアンサー。
私は生まれて初めてのシンプルだけど難しい質問をしました。
「愛って何よ?」
コリアいわく、
「愛するパートナーを見つけて、子供を持って、自分の親がしてくれたように、責任を持って子供を育てていくこと。それが愛。パートナーはまだ見つかっていないけど。」
とのこと。
若いのにえらい保守的やな。
愛があっても子供を持つとは限らんのやで。
私のEnjoyをけなした割にLoveかいな。
と思いつつ、反論する戦意喪失。
「You can find!(きっと見つかるよ。)」と言って和平交渉。
そろそろ退席をしようと思ったところ、最後にコリアが私に、
「君は、絶対ファンタスティックなマザーになれるよ。」
と言いました。
「そうか?」
と冷めた感じで言うと、笑顔で
「You have love.君は愛を持っているから」
と言われちゃいました。
そこで議論終了。
私は「お休み」を言ってベッドへ行きました。
パートナーを見つけたペレグリーノカップル
コリアは何者だったのか
ベッドの上で寝る直前に思っていたこと。
「いい母親になれると言われて、女全員が嬉しがると思うなよ、若造が。」というのが、ひねくれた私のその時の正直な感想でした。
翌日の午前中は、コリアに日本をけなされた怒りでいっぱいでしたが、落ち着いて振り返り、議論したかったんやなと思えてきました。
翌日、オセブレイロ峠を越してから夕方頃に最終的に思ったのは、コリアはまだまだ青い、ただの青年だということ。
相手の意見を理屈っぽく批判しつつ、自分は、祈りだったり愛だったりを信じている。
そして、それを何の疑いもなく、自信を持って真っ直ぐ言える。
親や大人の弱い部分をなかなか認められない。
だけど、人前でポロっと泣いちゃう純粋な青年。
コリアは、ただの若者代表でした。
コリア、あんたも40歳になったら分かるよ。
耐えるばっかりじゃ、しんどいこととか。
祈り、願うだけでは何も変わらないこととか。
今の自分がいかに青いか。
だけど、その青さはとてもまぶしい。
私に怒っていた青い目も、その目からこぼれてきた涙も、羨ましいくらいまぶしい。
コリアが40歳になっても、まだ真っ直ぐに「愛が一番」って誰かに言えてたら、それはそれで最高。
でも、人の意見も尊重できるようにはなってて欲しいところです。
その頃には、コリアに失望されないように、日本も良くなっていてほしい。
私の方は、60歳くらいになって、英語力を身につけて、逆に「祈り」や「愛」について熱く語ってたりして。
それはそれでアリ。
オセブレイロ峠。寒かった…。
(おまけ)外国人と議論する時に必要になりそうな単語集
海外を旅していて、海外の人に「日本と言えば?」と聞いてみることが私の癖です。
20代の頃は、EUでは、「ナカータ(中田英寿)」「ピカチュウ」「北野武」「クロサワ」という答えが多かったです。
今も変わらず、「ピカチュウ」「クロサワ」という答えが返ってくることが多いですが、最近は、時々アメリカ人からは「ケン・ワタナベ」が出てきて(日本人が思っているほどメジャーでもないのが残念)、EUでは「ギブリ(ジブリ)」「キャプテン翼」等のアニメ系が強いです。そして、残念だけど、日本と言えば「フクシマ(福島)」「ツナミ(津波)」がすごく多い。この辺のトピックをきっちりと英語で話したいというのが私のこれからの課題です。
原発 :nuclear power station(plant)
放射能:radioactivityとかradiation
放射能汚染:radioactive contamination
脱原発:abandon nuclear powerだけど、簡単にnuclear power freeでもOKなよう。
例文)
長い休みをとることは、日本人にとっては難しい。
To take a long vacation is very difficult for Japanese.
英語が苦手な旅人の皆さんも一緒に頑張りましょう!