2016年のカミーノはこの女との出会いから始まりました。スペイン人って本当に情熱的なんだなと感心した女性。その名もスザンナ。同じくアラフォー独身。私の大切なamiga(友達)です。
出会い
2016年のカミーノ初日、ログローニョのアルベルゲに着いた時のことです。2015年のカミーノは、ログローニョのこのアルベルゲで巡礼仲間が次々とお別れしにきてくれて、みんなを見送った場所です。そこから、2年目のカミーノを再開させる私は全く同じアルベルゲに到着。一年前にアメリカ人ルークにBIG HUGをしてもらったキッチンをのぞきました。そこでお湯を沸かしてお茶を飲んでたら、斜め前の席にスペイン人の女性が向かいの男性とスペイン語で話をしていました。スペイン語を猛勉強してのぞんだ2年目のカミーノ。ここはぜひスペイン語を試したいと思い、「オラ!」と話しかけてみました。「私は日本から来ました。」的な基本的な自己紹介をしたところ、「おおー!」と(こいつ、スペイン語、喋れるやん!みたいな感じで)驚かれ、にこやかにゆっくりとスペイン語のトークが始まりました。男性はドイツ人で英語もスペイン語も喋れたので簡単に私に通訳しつつ、私の手書きのスペイン語ノートを見ながらのトーク。結構いけるやん、と手応えを感じた私は、いい気になって自信に満ち溢れていきました。そして、そのスペイン人のスザンナの「バルに飲みに行かない?」という誘いに、余裕のOKをし、もう1人、たまたまいた日本人の一人旅の女子とドイツ人男性と私たちで、出会って10分くらい、アルベルゲ到着から30分以内で飲みに繰り出したことが始まりでした。
カミーノでスペイン語の猛特訓を受ける
歩き始める前夜から意気投合した私たち。それから毎晩のようにバルへ繰り出しました。カミーノを歩く朝から15時くらいまでは、私はゆっくりと歩きます。大体6時過ぎには出発して、誰もいないような道を真っ暗な中を歩いてる間、スザンナはまだ寝ています。8時くらいにスザンナは私が歩いた道をスタスタと歩き10時くらいには私に追いついて2回目の朝ごはんを一緒に食べます。食べ終わったらスザンナが、「〇〇という町のアルベルゲで先に待ってるから」と言って、彼女のスピードで歩き始め(競歩くらい速い)、私は無理せずノロノロ歩きます。その間、私は色んな人と話しながら歩き、泊まる予定の街に着くと、大声で名前を呼ぶ彼女。(そしてイタリアン親子もいる)
スザンナはすでに赤ワインを飲んでおり、私に教えるためのスペイン語のメモを書いていて、「はい、今日の分」と言って渡されます。そのメモをもとに、晩ご飯中かバルで彼女の猛特訓。ブルゴスでは、イタリアーノ親子とスザンナと一緒に大聖堂に行き、スペイン語で大聖堂の装飾や歴史などのレクチャーをしつこく教えてくれました。日本語でも難しいキリスト教的な話。「日に日に下手になっている!」と言われながらのかなりスパルタなカミーノ留学でした。
ジェラシーの嵐
私とスザンナは、歩くスピードが違いすぎるので、いつも一緒に歩くことはなく、着いてからの時間だけが私たちの時間。道中で私が色んな人たちと仲良くなり、ご飯の約束をしたりしていることを知らない彼女。道中でイタリアーノのエロスくんと2時間近く歩きながらジブリについての質問責めにあったことも知らない。(エロス、ごめん!出会った日本人が悪かったよ。私は宮崎駿氏の映画をほとんど見ていないし、120%のアンチ宮崎駿です。もっとジブリについて説明できる日本人が、あと5000万人くらいいるのに、運が悪かったね。トトロの歌を歌って喜んではもらえたが。ジブリ、イタリアで人気があるようです。)
スザンナとバルで飲んでいた時に、エロスが来て私に、「足、大丈夫?薬局そこにあったから一緒に行くかい?」と言った時、スザンナのブチ切れたスペイン語が飛びました。
「ポルケー?!(Why?の意味)」
何で足が痛いことを彼に言って私に言わないの?
何で彼と薬局に行くの?
ということをスペイン語でまくし立てました。
何で?と言われても…こっちがポルケやわ。説明、スペイン語で難しいし。エロスに謝り、スザンナと薬局に行き、とりあえず、足が痛いのを言わなかったことを謝っておきました。
また、英語で他のペレグリーノと話すととても嫌な顔をして、「あの男を愛してるの?」と聞いてくる。たとえおじいさん相手でも。
とにかく、そういう出来事が増えていき、ちょっとしんどいな…と思うことも出てきた私でした。
そうは言っても優しくしてくれる至れり尽くせり女
言葉の壁。分かり合えないもどかしさ
そうそう、彼女は、全く、これっぽっちも英語が話せません。そんな人いるの?というくらい、シンプルな英単語も分かりません。仲良くなればなるほど、もっと深い話もしたくなるもので、やはり言葉の壁が立ちはだかります。スザンナがスペイン語で深刻な話をしているのに、ほとんど理解できない私に対して悲しい顔をするときもありました。「スペイン語が日に日に下手になっている!」というのは、彼女が私に求めることが増えていったということでしょう。(自分で言うのも何だけど、凄い学習能力の高さだったと思う。1週間でスペイン語が話せるようになってたから。)
それでも、一緒にいるときはとにかく楽しくて、よく笑います。
- 私が21時に寝ても、寝てる私の口の中に、21:30にチョコレートケーキを突っ込んでくる無茶苦茶な女。
- シャワー後、ワンピースの下にレギンスを履いている私を見て、それはおかしいと言って、レギンスを取り上げて頭にレギンスを被って走って逃げて行く女。(足が痛くて追いかけられない)
- 山ほどのパンデトマテ(バゲットにトマトを潰して塗ってあるもの)をフランスパン2本分作ってくれて、全部食べていいよと言う女。
- ある時、珍しく私が先にアルベルゲに到着して、スザンナがいないしどうしたのかなと思っていたら、夜、馬に乗って現れた女。
それがスザンナです。
言葉の壁を超えてくる面白さがあったので私は笑って過ごせていました。彼女はレオンという町までで終わる予定だったのですが、レオン到着の2日手前の町で、突然、「ここで私のカミーノを終えるから。ありがとう。またね。」と言い、お別れとなりました。
突然、現れた彼女
何で、予定より2日も早く切り上げたのか、いまいち理解できないまま、笑顔でお別れし、
「もっとスペイン語を勉強するから、来年また会おう」と約束しました。
なのに、翌日の夜、次の町のアルベルゲで私が休んでいたら、後ろからスザンナが突然現れて抱きついてきました。
え?!!どういうこと?
そこの町にはいくつも宿があり、どうして私がここだと分かったのか不思議で、スザンナに尋ねました。
すると、アルベルゲを一軒ずつたずねて、日本人の黒髪の大きい女がいるか聞いて回ったとのこと。 よく分からないけど凄い根性!
私も嬉しくて喜んでいたら、「さあ、今からバルでワイン飲みに行こう!」というもんだから困りました。
タイミング悪く、今、まさに、韓国人の兄貴がキッチンで私のリクエストで豚丼を作ってくれている…。あと15分で出来上がる予定。
事情を言うと、予想通り、物凄く怒り始めます。
「ポルケ?!」「私がこれだけのことをして会いにきたのに!私と別れた途端、他の男?!」っていう感じです。
知らんがな〜と思いつつも、妥協案として、バルに15分だけ行く、兄貴に事情を言ってスザンナの分も作ってもらってみんなで一緒に豚丼を食べる、という案を提案。渋々OKしたスザンナとバルへ繰り出しました。豚丼も、一緒に食べ、イタリアーノパパからもらった大量のスイカも食べて楽しく過ごし、兄貴と私とで教会のミサに参加するからスザンナも行こうと誘い、教会まで歩きました。教会の扉の手前で突然、スザンナが立ち止まり「ここで別れよう」と言い、ミサが始まっていたので、仕方なくそこで別れて教会に入りました。それがスザンナとの最後でした。
帰国後
スザンナが男なら、ひと昔前のトレンディードラマのような展開で、突然の別れ、再会、そして別れみたいな日々でしたが、メールでのやり取りで分かったことがあります。長い長いメールがスザンナから来ました。
スザンナは、お母さんをガンで亡くし、悲しくて笑うことも忘れて仕事に追われて暮らしていました。疲れ果てて休暇を取ってカミーノにやってきたのでした。そこで、1人の時間、お母さんと心の中で会話する時間を、と思っていたら、おかしなハポネサ(日本人女という意味のスペイン語)が下手くそなスペイン語で話しかけてきて、1人で旅するはずが、なぜか一緒に過ごすことになり、楽しくて楽しくて、気づいたら笑えるようになってたと。でも、母を亡くしてばかりの自分が楽しく過ごしていることに、罪悪感を感じ、1人になりたいんだったと思い直して、急にお別れをした。
ハポネサを忘れるために、謎のスペイン男ペレグリーノとキスをしたが、そんな自分に後悔をし、1日離れて、こんなにもあのハポネサを愛していたなんて!と気づき、もう一度会いたくて、無我夢中で会いに行ったと。
だけど、ハポネサは自分のことを忘れて前を向いて過ごしていたので、自分は去るべきだと思い、教会の前で去ることに決めたとのことでした。
………。
前半の部分はとても理解ができたし、お母さんのことをスザンナは伝えたかったのに、私の語学力の限界で分かってあげられなかったことに私ももどかしい気持ちになりました。
だけど、後半が…。
え?
全編スペイン語と、変な翻訳アプリを使った結果、意味不明な英文も混ざり、もはや宇宙語。
この場合の「愛」とはあの愛ですか?
どの愛ですか?
スペイン人男とキスって何やってんの、スザンナ!
愛についての疑問はあえてスルーし、私にとってスザンナとの時間は、とても大切な思い出で、楽しかったこと、友達として好きだということを伝えました。
その後のメールでのやり取りでも、スザンナの脳内だけで時々ドラマチックに変換されます。「私を愛しているならもっとスペイン語を勉強して!」とか、「サヨナラ、私は雷に打たれる前の麦に戻ります。」とか急に言います。私のFacebookをブロックしたかと思うと、「私を許して。花束を持ってそっちに行くから。心は。」みたいなメール。ビーチでのセミヌードの写真も送ってきてくれます。
はて?そこはスルーしとこ。
「日本は今は夏で、暑いです」「怒ってないよ」「私はユアンマクレガーが好きです」「これ、日本のラーメンやで」という写真を送るなど、その程度のお返事で返しています。
私のいい加減な受け流し方が、ちょうど良い距離感を保ててると思います。仕事柄分かるのですが、普通に対応していたら無理ですね、彼女とのやり取りは。言葉の壁ではない問題が潜んでるような。意味不明すぎる。かなり高度なスパニッシュジョークと思うことにします。
相手が自分をどう思ってるかを気にしすぎず、自分がどう思ってるかを最優先することをモットーに生きている私は、「あの楽しかった彼女との時間は友情だ!」という考えだけが私の結論です。
そんなこんなで、今は、友達として再会を楽しみにしている私たちです。来月会う予定。
色々ドキドキや…。